わたしたちに許された特別な時間の終わり

 

先週、嶺がプロデューサーとして参加したミュージックビデオの撮影がありました。

 

このミュージックビデオの曲名は『僕らはシークレット』。 イノセンスで痛切な歌声、物静かな導入から衝動を開放していくエンディング。 7分32秒の時間を長く感じさせない、強い世界観を感じさせる素晴らしい曲です。 個人的にもとても、好きな音楽。 ただこのミュージックビデオが普通とちょっと違うのは、曲を作った本人がもうこの世にいないということです。

 

 

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この曲を作ったのは増田壮太というミュージシャン。 高校生の時にバンドコンテストで全国優勝をするなど若くして華々しい活躍を遂げた彼。 しかし徐々に現実の厳しさが立ちはだかり、メジャーデビューを目指すも結局のその夢は叶いませんでした。 そして2010年12月、27歳の冬に彼は自らの命を断ちます。

 

それだけ聞くともしかしたらよくある話かもしれませんが、またちょっと特別なのは、 彼・増田荘太の後年のその苦悩の日々は、ずっと映像に記録されていたのです。 彼の高校の後輩の太田信吾という映画監督が、彼を被写体にしたドキュメンタリーの制作を思い立ち、彼と彼の周囲の人々を映し続けていました。

太田くんが目指したのは、「音楽で食っていきたい若者のリアルな苦悩と、どん底からの再起」。 ですが、彼がその撮影の半ばでこの世を去ることになります。 彼が残した遺書には、「映画を完成させてね。できればハッピーエンドで」と書かれていました。

 

映画監督として以上に、高校の先輩後輩として、友人として彼の苦悩を間近で見続けた太田くんは、自身も悩み苦しみ、彼の死への責任も強く感じながら、彼が死ぬまでに撮った彼の人生の記録と、彼の死後の彼の周囲の人々の言葉、そして死後の世界の彼を想像したフィクションパートを織り交ぜた映画『わたしたちに許された特別な時間の終わり』を作りました。 今回ミュージックビデオを作った『僕らはシークレット』は、この映画の主題歌として使われた曲です。 『わたしたちに許された特別な時間の終わり』は、昨年の山形国際ドキュメンタリー映画際(世界でも有数のドキュメンタリー映画祭)でワールドプレミアされ、その上映は満員・大反響を呼びました。

そして今年8月、ポレポレ東中野という映画館でのロードショー公開が決定しています。 映画公開に合わせ、この曲も含めて増田荘太の残した曲から選りすぐったベストアルバム『命のドアをノックする』が8月に発売されることになり、そのプロモーションのために今回のミュージックビデオが撮影されたのでした。

 

 

 

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ミュージックビデオは、映画の内容と密接に結びついたもので、 居なくなってしまった彼の周囲の人々の想いを表現した内容になっています。 演奏シーンには増田荘太が昔組んでいたバンドメンバーの方々も参加して下さり、 僕らには想像もつかない様々な想いを抱えながら演奏をしてくれました。

 

 

 

私、嶺は太田くんと大学時代の同期で、彼の作品にスタッフで参加したこともあり今回ミュージックビデオにプロデューサーとして参加することになりました。

生前の増田さんのことは一切知りません。言ってしまえば、作品を通しての接点しかありません。 ですが試写で観た『わたしたちに許された特別な時間の終わり』で描かれていた彼の姿から感じたのは、既視感。

画面に映っている彼の赤裸々な苦悩、もがきは、かつての自分の姿でした。

壁にぶち当たった時に、大抵の人は横に曲がって別の道へ行くことを選ぶところを、たまたま彼は横に曲がることができなかった、壁に向かって前進することしかできなかった、ただそれだけの違いのようにも感じられました。

そしてこの映画はただのドキュメンタリーではありません。強いメッセージを持ったフィクションパートが織り交ぜられることで、「死ぬこと、生きること」という普遍的なテーマに昇華された「わたしたち」のための物語となっています。 音楽に限らず、全ての表現行為や、またはスポーツでも勉強でも何かを志したことのある全ての人が経験した、人生のある一時期の「特別な時間」。 映画を観終わった後に、『わたしたちに許された特別な時間の終わり』というタイトルの意味が分かるはずです。

 

世界にただ一つしかない特別な映画だと思います。 本当にオススメです。

 

 

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main_top_pc 太田信吾監督作品 『わたしたちに許された特別な時間の終わり』 (日本/2013/カラー/119分) http://watayuru.com/

公式Facebookページ

https://www.facebook.com/watashitachini

ポレポレ東中野にて8月16日(土)よりロードショー

 

著名人のコメント

 

谷川俊太郎 「〈あらすじ〉に要約できない、

 細部からもこぼれ落ちる、

 虚構の手練手管も役に立たない、

 生きるという事実が、逆説的に映像を支えている。」

 

長澤まさみ 「自分が自分で無くなる瞬間。誰にだってある自由。  ただそこにある事に満足出来なくなったとしても、その世界をどう見るかは自分次第。

 それは大変なんかでは無くて、本当はすぐそばにあるはずの小さな喜びを大切にして

 生きたいという優しく穏やかな心が迷い、旅をしているのだと思います。  小さくも大きくなれる可能性に揺れながら。」

 

 

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増田壮太ベストアルバム 『命のドアをノックする』 8月6日全国発売。 http://amzn.to/1nz3Zjs CD_front

嶺隼樹